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京都地方裁判所 昭和23年(行)4号 判決 1948年11月15日

原告

前田重信

被告

網野町会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一は原告、その他は被告の負担とする。

請求の趣旨

被告が原告に対し昭和二十三年二月二十三日爲した除名議決は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。若し右無効確認の請求が理由ないときは予備的請求として被告が原告に対し昭和二十三年二月二十三日爲した除名議決は、これを取消す、との判決を求めた。

事実

網野町の町会議員総数は二十二名であつて、原告は右町会議員であるが被告は原告に於て昭和二十二年十一月末、網野町が訴外山崎新八から府立網野高等学校建築用建物として、同訴外人所有の工場建物を買受くるに当り、これが一切の交渉を委嘱せられたのを奇貨とし、同訴外人から右建物を金十万円で買受けながら、町にはこれを金十二万円で買受けた旨僞り差額金二万円を私した行爲ありとし、右行爲により議会の体面を汚したとし、而して斯る行爲は地方自治法第百三十四條、及び網野町議会規則第百四十六條の所謂懲罰事犯に該当するものとして昭和二十三年二月二十三日の町会に於て議員たる原告を除名する旨の議決をした。併しながら

(一)  原告はそのいうが如き不正行爲をしたことはない。仮令原告に右のような行爲があるとしても、それは議場外の行爲であつて議場内の行爲ではない。議会の懲罰は議場内の行爲についてのみ加えらるべきもので議場外の議員の行爲は何等懲罰の対象となるものではなく、被告は懲罰権を有しないものである。仮りに議場外の行爲も又懲罰の対象となり得るものであるとしても、その行爲はなお議会の体面を汚すものであることを要するものであるが、原告は斯る議会の体面を汚すような行爲をした覚えはない。それにも拘らずこれありとして爲した被告の前記除名議決は違法であつて無効なるを免れない。

(二)  現行網野町議会規則は昭和二十三年一月三十一日施行せられたものであるから、同規則は、右施行以前の原告の行爲について遡及して、これを適用するを得ないものであるのに、これを適用して爲した右議決は又この点に於ても違法であつて、明らかに無効である。

(三)  なお昭和二十三年一月三十一日以降同年二月二十三日迄の町会は町長の招集に係るものではなく、漫然と議員が參集したものに過ぎないか又は議長が何等町会を招集する権限がないのに議員を集合せしめたものであるから、法律上正式の町会ではない。從つて斯る町会に於て除名を議決しても何等議決としての効力のないことは論を俟たない。

仮りに被告主張のように昭和二十三年一月三十一日の町会が議長の招集に係る当日の協議会開会中、町長の臨席を得てその場所で招集せられたものとするならば、原告には右協議会の通知はあつたが、その協議会には欠席していたものであるから町会の招集告知は受取つていないものである。又その後の町会の招集告知も、もとより受取つていない。このような議員の一人に対して招集告知を発しなかつた招集行爲が招集行爲としての効力のないことは明らかであると共に前記のように昭和二十三年一月三十一日の町会は議長招集に係る協議会開会中、その場所で招集せられたものであるから、地方自治法第百一條に規定する三日の予告期間がなかつたことは明白であり、その後の同年二月二日以降同月二十三日迄の町会も、又同條による予告期間をおかずして招集せられたものであるから、この点に於ても招集行爲としての効力はない。なおこの点に関する被告の急施を要する場合であつた旨の主張事実は、これを否認する。從つて以上のような無効な招集に基いて開会された町会の議決が無効であることは謂う迄もない。

(四)  仮りに右主張が理由ないとしても昭和二十三年一月三十一日から同年二月二十三日迄の町会に於て原告に対する懲罰動議のあつたことは、同期間の会議録に徴しても、これを認めることができない。而して動議がなければ、これを議題として審議するを得ないものであるから、仮りに恣に審議したとしても議決としての効力を生ずるを得ないものである。

(五)  右主張も又理由がないとしても昭和二十三年二月二十三日に於ける町会の出席議員は二十一名であつて、除名の可否決定は投票に因つたところ、一名は棄権した爲、投票総数二十票について開票の結果、除名賛成十五票、反対四票、白票一票の結果となり、結局出席議員の四分の三以上の者の同意がなかつたので除名は否決せられたものである。それにも拘らず開票後先に棄権した議員をして更に一票を行使せしめ、その結果除名賛成十六票と計算して除名を可決したことにしたが、斯る開票後の投票が無効であることは謂う迄もない処であるから右無効なる一票を計算の基礎とした議決も又無効であることは論を俟たない。

以上いずれにしても原告に対する被告の前記除名議決は無効であることを免れないから、これが確認を求める。若し前示のような瑕疵がいまだ被告の原告に対する前記除名議決の無効をもたらす程度のものでないとするならば、斯る瑕疵のある議決が少くとも取消さるべきものであることは謂うまでもないから第一位の請求が理由がないときは、原告は被告が昭和二十三年二月二十三日原告に対して爲した除名議決の取消を求めると述べ、立証として甲第一乃至第九号証(内甲第五号証は原告の写)第十号証の一、二、第十一号証を提出し、原告本人訊問の結果を援用し、乙第三号証の一乃至十三、第五、六号証の成立及び第乙三号証の一乃至十三の原本の存在を認めるが、その余の乙号各証はいづれも不知、なお乙第三号証の十一、十二はこれを利益に援用すると述べた。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として、網野町の町会議員総数が二十二名であつて、原告は右町会議員であること、及び被告が原告に対し昭和二十三年二月二十三日原告主張のような非行あり議会の体面を汚したとして、その除名議決をしたことは、これを認める。

併し

(一)  原告が府立網野高等学校設置問題について町会議員たる資格に基いてその設置期成同盟会理事次で同校建設委員に挙げられながら高校建築用建物を町が買收するに際し町長及び所有者を欺いてその間に私利私慾を計つた非行は嚴然たる事実でありこの事実が昭和二十三年一月下旬発覚し町民の非難の声高まり一應当局の搜査もあつたが特殊な事情関係から立消えとなつた町会議員たる資格と地位を利用して町の事業に関連して私利を追求するような行爲がたとえ刑罰に値しないとしても議会の体面、品位を汚すものであることは多言を要しないところである。而して議会は議場の内外を問わず地方自治法及び会議規則に違反する行爲をした議員に対し懲罰権を有するのである。原告の非行は正に地方自治法第百三十四條網野町議会規則第百四十六條に該当する懲罰事犯として欠けるところはない。

(二)  網野町議会規則が昭和二十三年一月三十一日施行せられたことは原告主張の通りであるが懲罰は行爲そのものを対象とするものではなく、斯る行爲によつて惹起せられた結果を処罰の対象とするものである。從つて被告の行爲によつて町会の体面を汚された事実にして議会規則の施行後に存する以上、これに右議会規則を適用することに違法はない。

(三)  原告は昭和二十三年一月三十一日以降同年二月二十三日迄の町会に町長の招集行爲がなかつたと主張するが、これは否認する。即ち昭和二十三年一月三十一日は議長の招集による協議会開会中、その場所に町長が臨席して町会を招集する旨宣言し、町会が開会せられたものであり、昭和二十三年二月二日及び同月十七日の町会はいづれも町長の招集に係り、ただ同月二十三日の町会は前十七日の町会の延会である爲に、これが招集状が発せられなかつたのである。尤も右昭和二十三年一月三十一日の町会の招集告知が当日の協議会に欠席していた原告に対し爲されていないこと、昭和二十三年二月二日の町会招集告知が原告に対し発せられていないことはこれを爭わないが、同年二月十七日の町会の招集告知は原告に対してもなされている。而して網野町会に於てはまず議長招集による協議会を開催し引続き町長招集による本会議に移行する事例は從前から少なしとしないのであつてこの場合協議会に欠席した議員に対し本会議招集告知のないことを以てこれを違法視することは地方議会たる性質上却つて町政の運営を阻害する結果となるものであるから、右一月三十一日の本会議につき原告に招集告知のなかつたことを違法視する原告の主張は不当である。又原告に対して招集状の発せられなかつた昭和二十三年二月二日の町会に於ては、何等議決せられた事項なきものであるから、その後の正規の手続によつて招集せられた町会の議決の効力に何等影響するものではない。

原告はなお三日の予告期間をおかなかつた昭和二十三年一月三十一日以降同年二月二十三日迄の招集は違法であると言うが、当時原告の前記行爲に対する町民の非難の声は、ごうごうたる有樣で網野高等学校建設という網野町最大の事業が、その経費七百万円の殆んど大部分たる六百余万円を町民の寄附にまつものである関係上、町会に於て、何等かの形に於て原告に対して急速な処置をとらなければ、町民多年の宿望たる右事業をも水泡に帰するという事態に立至つていたのであるから、地方自治法第百一條第二項但書の急施を要する場合に該当する。仍つて右各招集に予告期間をおかなかつたことに何等の瑕疵はない。

(四)  原告の昭和二十三年一月三十一日以降同年二月二十三日迄の町会に於て原告に対する懲罰動議がなかつた旨の主張事実は否認する。同期間の会議録に徴しても明らかであるように、昭和二十三年二月二日の町会に於て和田議員から懲罰委員会に於て、これを審議すべき旨の動議提出され安逹議員の賛成によつて議長により採決せられ懲罰委員会に附されたものであるから原告の主張は理由がない。

(五)  昭和二十三年二月二十三日の議決が原告主張のような経緯のもとに原告主張のような投票結果数を得たことは認めるが、右表決に際し、投票しなかつた議員は議長であつて、抑々議決に当り議長は裁決権はこれを有するが表決権は、これを有しないものであるからその投票しなかつたのは当然であつて、これを原告主張のような意味の棄権と見るべきではない。從つて議長は出席議員数より控除すべきものである。又賛否を投票によつて決する裁決に当つて、自己の意思を述べることを拒否した白票の如きは無効であるから、投票の算定に当つては、これ等無効投票は除外して有効投票のみについて法定数の同意があつたかどうかを見るべきである。そうすると有効投票十九票中四分の三以上の十五票の同意があつたのであるから、右の議決は適法である。

仮りに議長に表決権あり且つ出席議員数に算入すべきものとするならば、議長は一旦開票後であつたが一般議員全員の承認の上、引続いて投票したものであるから、その投票は有効である。若し右議長の開票後の投票が無効であるとしても出席議員二十一名の四分の三は十五名と一人の四分の三となり、斯る端数はこれを一人と計算する規定はないから、これは合理的に考察して除外すべきものである。從つて右の見地からしても本件議決に何等瑕疵はないから、原告の本訴請求は第一位の請求はもとより予備的請求も理由がないと述べ、立証として乙第一号証、第二号証の一乃至四第三号証の一乃至十三(原本の写)、第四乃至第六号証を提出し証人藤田勇平、寺坂兼一、高山信夫、和田良一、安逹德十郞、干貝嘉一郞、田茂井善左衞門の各証言、並びに被告代表者本人訊問の結果(第一回)を援用し、甲第一乃至第七号証の各成立及び甲第五号証の原本の存在はこれを認めるがその余の甲号各証は不知、甲五号証は利益に援用すると述べた。

当裁判所は職権をもつて被告代表者本人(第二回)を訊問した。

理由

第一、事実の認定

被告網野町議会が昭和二十三年二月二十三日原告を地方自治法第百三十四條及び網野町議会規則第百四十六條に該当する者と認めて除名議決をしたことは当事者間に爭いがない。

原告はこの除名議決は実体的にも手続的にも幾多の瑕疵ありとしその無効乃至取消の事実上及び法律上の事由を主張し被告はこれを理由なしとして抗爭する。その爭点は多岐にわたるが互いに関連するものが多いので、まず最初に発端から議決に至るまでの事案の眞相を顯はれた信ずべき証拠により可能な限りに於て認定する。

当事者間に爭いのない諸事実に織込み、各成立に爭いのない甲第四号証第七号証、乙第三号証の一乃至十三(乙第三号証の十二、はその一部)乙第四乃至第六号証(甲第五号証及び乙第三号証の一乃至十三、については各その原本の存在についても爭いがない。)証人麻田勇平の証言により各成立を認め得る乙第一号証第二号証の一乃至四、証人麻田勇平、寺坂栄一、高山信夫、和田良一、安逹德一郞、千賀嘉一郞、田茂井善左衞門、被告代表者本人、篠村龜吉(第一、二回)並びに原告本人(一部)の各訊問の結果を綜合すれば左の各事実を認めることができる。この認定に反する乙第三号証の十二及び原告本人訊問の結果は前掲各証拠に対比して信用し難くその他原告の全立証によるもこの認定を左右するに足らない。

(一)  府立網野高等学校設置問題

その擁する人口約九千、戸数約二千の網野町に於ては府立網野高等学校の設置は十数年來の要望であり議案であつた。昭和二十二年四月の町会議員選挙により当選した新人二十名個人二名総数二十二名の町議会議員を構成員として成立した網野町議会は同年五月二十三日この議案を採択しその設置実現を期するため同年九月一日府立網野高等学校設置期成同盟会が結成され網野町長麻田勇平が会長に町会議員町有力者が副会長、理事、評議員等の役員に就任し原告も町会議員として理事の一員であつた。

その後同年十月三十一日右高校設置建議案が京都府会に於て採択せられ右期成同盟会は昭和二十三年一月二十四日高校建設の使命逹成を目的とする実行機関たる京都府立網野高等学校建設委員会として発展的改組を遂げ同委員会は町会議員町有力者を委員とするもので企画部、建設部、資金造成部の三部を置き委員長に町長麻田、副員長に町会議長篠村龜吉外一名が就任し原告も企画部委員及び資金造成部委員として名を列ねた。そして高校建設費は予算額七百余万円その中六百余万円を網野町民その他の寄附に俟つもので現実醵金額は未だ少額に止まるがその寄附申込額は四百五十万円に逹し、既にその敷地の選定を終え校舍建築に着手し昭和二十四年四月開校を目途として凡ゆる努力が傾注されている。

(二)  網野高等学校の校舍に充当のため山崎新八所有の遊休工場買收の経緯とこれに絡んだ原告の不正行爲

ところで高校校舍は一部は新築するも大部分は軍拂下の建物一棟と町が買收した山崎新八所有の遊休織物工場及び外一工場の建物をこれに充当することになつた。この山崎所有の工場買收は、昭和二十二年十一月中旬頃原告が訴外野村定市同池辺範治を通して山崎に工場賣却の意向のあることを聞知し野村、池辺の両名と相談の上これを町に十二万円で買收させ一方山崎にはその金額を祕しそれより安價で手放させ差金を領得しようと企て、その頃麻田町長に対し山崎がその所有工場を十二万円で買却するというから、これを買收して高等学校の本館に充当してはどうかと申出でたことに端を発する。町長麻田はこれを同月二十五日開かれた前記期成同盟会の理事会に諮つたところ異議なく承認されたので、その席で原告に町長の代理として買收交渉方を委嘱した。原告は町長自身が山崎に面接せんとするのを止め、同月末頃野村と共に山崎を訪れ、町が十万円で買收することになつたと告げ、山崎の價格についての不服を理事会で決つたのだからどうすることもできぬと押えつけて山崎を賣主町を買主として代金十万円で工場建物を買收する旨の契約を締結し、山崎より半金五万円を早急に貰いたいと要求されるや、同年十一月十日麻田町長に買收代金の内金七万円の支出方を求め、即日收入役山中九兵衞に対する七万円の支出命令を発せしめ情を知らない山中に代書させた山崎新八名義の工場買却代金の内金七万円の請求書並びに領收書一通と共に山崎に支拂うべき金として七万円(当時役場に手持金なく銀行より借用したため一ケ月分の利子を差引いた現金六万九千四百十一円と一ケ月分の利子五百八十八円の領收証)を受取り、野村と共に山崎方に赴き同人に五万円の領收証と引換えに現金五万円を交付した後野村方に於て野村の妻が山崎金二から借りて來た山崎と刻した印章を前記請求書並びに領收書の山崎新八名下に押捺して同人名義の請求書並びに領收書一通を僞造し、次いで自己の手許に残した差額金は原告の提唱で分配取得することにし原告は校舍の件も一段落ついたし、今晩町長收入役総務課長等を招宴することになつているからとて一万円欲しいと主張したが結局原告は八千四百十二円野村一万円池辺千円として分配して不法に領得し原告は前記僞造証書を翌十一日收入役に眞正なものとして提出し何喰わぬ顏をしていた。ところが昭和二十三年一月二十日頃山崎に於て右差額鞘取りの事実を知つて野村を詰り野村は非を認めて謝り、その前後措置のため原告に相談したところ原告は犯罪にはならぬとうそぶいて取合わなかつた。併し事態惡化の形勢と見るや漸く同月二十九日野村利喜藏を介し原告等はそれぞれ利得額を吐出し、山崎に二万円を交付し金銭的実害はなくなつた。なお、その後町に於ては前記山崎の買收工場の坪数に誤算があつたので買收金額を十四万円に增額した。

(三)  右事件の発覚と町長及び議員の動き

原告の右不正行爲は一月二十二日頃町長麻田副議長安逹德十郞等の耳に入り同月下旬には一般議員にも漸次傳わつた。警察当局もこれを探知して搜査に着手したが何故か刑事事件としての即時発展は見られなかつた。町長はこの問題が学校設置の面に惡影響を及ぼすことをおそれ不拡大方針の下に穩便に解決されんことを望み一部の議員もこれに同調した。一月二十八、九の両日安逹副議長は網野区出身議員の会合を催し、原告に反省を求めたが、原告は天地神明に誓つて不正なことはしていないと大言し或は自分は仲介業者の看板を持つているから不正ではないとて何等反省の色を示さなかつた。かくては右不拡大方針は守らるべきもなく大勢の赴くところは即刻町会を招集して事実を糺明すべしの声となり、以下に述べる如く数次の協議会本議会を連ねて除名議決に至つたのである。

(四)  一月三十一日の町会協議会と本会議、網野町議会規則の制定と常設懲罰委員会の設置

安逹副議長は原告の態度を甚しく不誠意であるとし議長に協議会の招集を促し、磯村議長は一月三十一日午後二時、山崎工場買收経過等についての事情聽取のための町会協議會を原告を除く全議員の出席の下に開催した。原告は招集通知を受けたが私用で中郡の親戚方に赴き欠席した。右協議会は約三時間にわたつて協議を重ねて硬化し安逹議員から原告を議会懲罰に付すべしとの発言あり全員同意見であつたが、それについては昭和二十二年一月二十九日制定の網野町議会規則には懲罰に関する條項の定めなく新規則を制定する必要があつた。そこで本会議を招集すべきことを町長に促し、町長は急施の要ありとして直ちに会場に臨み網野町議会規則制定のための本会議を招集する旨各議員に告知した。網野町会の慣例として問題の如何によつて議長招集の協議会を開き必要に應じて協議会から町長招集の本会議に移行することも又本会議中必要に應じて協議会に入ることも、從來屡々行われていたので当日もこの慣例に拠つたのである。併しながら右協議会に欠席していた原告にはこの日の本会議の招集は告知もされておらず又招集を告示の方法に依つた事実もない。さて右本会議は同日午前五時三十分開会議第一号網野町議会規則が上程審議され原案通り全員一致で可決即日施行された。この新規則は総理廳の作成したひな型に則り作成され約一週間前の本会議に於て、次の本議会に上程されるであろうとして柴田総務部長から読み上げられたものである。この規則可決に引続いて野村、寺坂両議員から常設の懲罰委員会設置の動議提出され、全員賛成し選挙の結果寺坂議員を委員長とし浜岡、坪倉、山下、高山の各議員を委員とする常設懲罰委員会が成立した。この日の本会議で原告に対する懲罰の動議が成立したかどうかは明確ではない。

(五)  二月二日の本会議

この本会議には原告及び三浦議員欠席、前田問題を議するための町長招集に係るものと認められるが、原告に対し町長の招集告知も告示もあつたとは認められない。午前九時半開会と同時に協議会に入り、午前十時五分本会議を再会し寺坂懲罰委員長より意見の報告あり、和田安逹両議員より本人の行動許すべからざるものありとして懲罰委員会に付して懲罰すべき旨の動議提出され本井議員等の賛成あり、動議を議題として挙手裁決の結果十五名の多数の同意で懲罰委員会付記に決し、同委員会は別室で審議した上、寺坂和田両議員が辞職勧告委員として原告方に赴き議会の空氣を傅へ切に自省を促したが原告は議会人として勧告に應じ難い除名処分等に対してはあくまで戰うとて勧告は徒労に終つた。午後七時再開の本会議に於て寺坂委員長より、委員会はあらゆる案を檢討したが一致点を見出せず白紙として答申する旨の報告があり、討議の結果意見は(1)公開の席上における陳謝(2)現状のままで高校の開校告示を機に辞職勧告し應じなければ除名(3)除名の三つに分れ正に懲罰の当否を表決に問わんとした際原告飜意の急報に、休憩しその間和田河田両議員が原告に交渉し午後十時再開、両議員から原告は常任委員の辞表一通提出した。議員の辞表も明日中に提出させる自信ありとの報告があつたので議会は河田議員にこれを一任することに一決し原告の経理委員事務委員等の辞職屆を認めて閉会した。

(六)  二月十七日の本会議

この本会議は昭和二十一年度網野町歳入歳出決算と議第二号昭和二十二年の條例第五号一部改正の二議案審議のため招集されたもので、全議員に町長から三日前の猶予期間を置かない招集告知があつたと認められるが、原告と三浦の両議員欠席、午前十時開会、第一の議案可決後河田議員から前に引受けた原告の辞表案提出について謝しなお数日の猶予方の承認を求めたに対し池部議員から懲罰か否か前田問題を直ちに解決すべしとの動議提出、議長これを問うと賛成意見あり、動議成立したが、希望により一旦休憩、午後零時再開し前記第二議案可決後右動議を議題として猶予か即決か討論採決の結果猶予説多数のため議長は二十三日午後一時再開する旨言明して休会を宣した。

(七)  二月二十三日の本会議、除名議決成立

二月十七日の延会たる本会議は前田の懲罰問題を審議するため原告を除く全議員出席、午後一時開会河田議員発言して原告に自発的辞表提出の意思なくこれについての自己の不明と非力を詫びた。ここに於て前田を懲罰すべきか否か、懲罰の種類如何等について討議を重ねた末議長は本会議に於て無記名投票で除名の賛否を決すると宣し、一旦休憩の後議長を除く出席全員二十名が投票した。議長が投票しなかつたのは特別議決の場合に於ても過半数議決の場合と同樣に表決権なしという意見がその際支配的であつたからによる。開票すると除名十五票、反対四票、白票一票の数があらわれた。議長を出席議員の数に加えなければ四分の三の同意があることになつて除名議決は成立し、反対に出席議員に加えれば同意は四分の三に逹せず議決は成立しないことになるとて疑義を生し議長は投票権を有しない者を出席議員に加えることは不当だと主張し、高山議員から特別議決においても議長を出席議員に加うべきではないか、そうだとすれば議長にも表決権があるのではないかとの質議が提出され全議員同感し、議長も投票すべしとなし、そのままの状態で一應地方事務所の意見を問合せたところ議長にも表決権ありとの解答を得た。よつて開票後ではあつたが開票前の投票として議長に投票させることを全員一致承認し、議長は表決権を行使して除名の一票を投じ、ここに出席議員二十一名の四分の三以上に当る十六名の同意により除名処分の議決が成立した。

(八)  除名の理由

右除名は原告が地方自治法第百三十四條及び網野町議会規則第百四十六條に該当するとしてなされたものである。その理由としたところは町会議員は公僕として町政に盡力すると町民に公約して立候補した原告の前記不正行爲はこの公約を無視し、公約を喰物として私腹を肥す全く公人としてあるまじき許すべからざる非行であるこの原告の非行により原告は原告を構成員の一人とする網野町議會全体の品位を傷つけ議会全体の体面を汚した。何となれば、網野町に於ては議会及び議員に主導性を認めこれを中心として、高校設置その他の大事業、重要問題の運営が行われ、一般町民が新議会及び議員の品性と力量に深い期待と関心を寄せていた矢先、事もあろうに未曾有の大事業たる高校建設問題に絡んで原告がかような非行を敢てし、それが発覚するに至つては事業遂行の前途に一大暗影を投じたわけで、それは單に原告のみならず席を同じうする全議員の恥辱であり、議員に疑惑の眼で見られ公人たるの誇りと名譽を保持し難く、とりもなおさず議会の体面を汚したものに外ならず原告が議員として止まる限りこの一大汚点は拭うに由なく、議会の権威の失墜を招來する虞れ少しとしなかつたからである。議会が一歩その処置を誤れば收拾すべからざる状態の発生を見たかも知れない情況であつた。そこで同志愛の心で議員は当初原告の自省自決を求め、その自発的辞任によりこの汚点を拭うべく議会も凡ゆる努力を惜しまなかつた。然るに原告には何等反省と謝意の色なく時は徒らに流れ、事情やむなしとして、議会の品位を保持し、その権威を高めるため除名の手段に出たのである。

(九)  前田問題に関する一般町民の輿論の動向

原告の前記不正行爲は発覚と共に漸次町民一般にも傳聳され、強く町民の注意を喚起し、公職にあるものが職を利用し私利私慾に走るが如きは許すべからずとして憤激した。一月二日及び一月七日の新聞紙にこの不正事件が報導されるに及び町民は寄るとさわるとこの汚題で持切り議員不信任の声も昻まり議会が如何なる行動に出るかを注視し、議会が即刻断乎たる処置に出ないことを生温しとする空氣が漂つていた。議会が除名を議決するに及んで大多数の町民はこれを当然とし議会の面目が保れたとしている。

第二、原告主張の無効乃至取消の事由に対する判断。

以上の事実を基礎として、以下逐次原告の主張する無効乃至取消原因たる事由の当否を判断する。

(一)  原告が網野高校校舍充当の山崎新八所有工場の買收に絡んで野村定市、池辺範治と共謀の上約二万円を不法に領得し(この不法領得が詐欺罪に問擬さるべきか橫領罪に該当すべきかは本件の証拠だけでは明らかでない)山崎新八名義の私文書を僞造して行使したことは前記認定の通りである。

原告は議場内に於て懲罰の対象となるべき行爲をしたことはなく、議場外の行爲については議会は懲罰権を有しないと主張する。

原告の右不正行爲そのものは議場外に於てなされ、議場内でなされたものでないことは明白である。併しながら議場外の行爲につき議会が懲罰権を有しないというのは根拠なき独断である。何となれば議会による懲罰は議員としての義務違背を契機として科せられるもので、議員として負担する義務はその義務の如何によつて議場を一歩出れば直ちに解放されるとは限らず議場外に於ても存することがあるからである。專ら議場に於ての義務を規定した地方自治法第百二十九條、第百三十一條乃至第百三十三條、又性質上議場内の義務を規定したと見るべき多数の会議規則の存すると共に例えば地方自治法第百三十七條網野町議会規則第百三十七條の如き規定の存し、專ら議場外に於て行われるか又は議場の内外を問わない招状不應、秘密漏泄の行爲については懲罰を科すべきことが定められていることから見てもそれは明白であろう。原告の非行は後述する如く議場の内外を問わず負担する議員の義務違背の行爲である。それが議場外に於て行われたことを以て懲罰の発動を否定し去ることの正当なる所以を知らない。

原告は又原告の行爲は地方自治法及び会議規則に違反する行爲ではなく、もとより議会の体面を汚してはいないと主張する。併しながらこの主張も失当である。地方自治法(以下單に自治法と略称する)は憲法附属の法典でその規定は憲法の條章に基礎を置く、而して特に憲法第八章及び第三章の條項は地方自治に密接な規定で自治法の根本精神として導入され、自治法の規定はこれら憲法の條項を当然のものとしてその上に冠して成立する。一は國家の最高法規であり根本法であり、一はその下にある直接の附属法規である。然る以上自治法に明記されていないからとて憲法の地方自治に関連する密接な規定を自治法の規定でないとしたり或は自治法はかような憲法の規定を無視しそれを包含するものではないと解することは許されない。憲法第三章國民の権利義務の第十五條第二項は公務員の本質を規定してすべて公務員は全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではないと宣明する。この本質の規定は公務員は全体の奉仕者として盡すべし一部の奉仕者として行動すべからずという法規範を包藏する。地方議会の議員は公務員である。從つて地方議会の議員は公務員たることから当然負担する責務即ち当該地方住民に対し住民全体の奉仕者として良心に從い、誠実に職務を行うべく自己はもとより一部特定の者の利益を図るべからざる義務を負い、このような義務の遵守が單に議場内に於てのみ要求せらるべきものでないことは自明である。而し懲罪理由を規定した自治法第百三十六條第一項の所謂「この法律」には憲法の前叙規定から当然生ずる議員に対する右法規範を包含するものと解すべきことは上述のところに照し当然であらう。さきに認定した如き原告の不正行爲は議員としての義務に背いた非行であり、自治法第百三十四條に該当するものたること多言を俟たず、またそれが会議規則第百四十六條に所謂「議会の体面を汚しその情状が特に重い」ことも第一の(八)の除名理由(九)の前田問題に関する一般町民の輿論の動向として認定したところにより明白に首肯し得られるであらう。

(二)  次に原告は昭和二十三年一月三十一日施行された議会規則第百四十六條はそれ以前に行われた原告の行爲に遡及して適用することを得ないに拘らず、これを適用した違法があると主張する。

会議規則は自治法第二十條が制定を要請する議会の運営に関する規則であるから議会の運営の必要上一定の作爲不作爲義務を議員に命ずる條項を持つべくその違反は自治法違反と同じく懲罰事犯たること自治法第百三十條第一項の明定するところである。抑々懲罰は懲戒とは目的性質を異にし、一定の組織体は自律権の発動としてその構成員に対し構成員としての利益を剥奪する限度に止まる限り紀律保持の必要上自由に懲罰を科し得べきであるが、政党政派の対立抗爭の予想せられる議会のことであるから予め紛議と恣意を阻止する必要を顧慮し自治法は特に懲罰理由を明定し一定の場合に限つて議会が議員に対し懲罰の権能を有することを認めたのである。然らば議会は行爲の時に規定のない限り事後に命令的又は禁止的規定を定めその違反を懲罰理由に加えたとしてもこれを遡及して適用することは刑罰法規と同じく許されないものというべきであろう。ところで一方自治法第三十四條第二項は懲罰に関する必要な事項は会議規則中にこれを定めなければならないと規定する。この第二項によつて会議規則に定められるものは懲罰に関し必要な事項というのであるからそれは懲罰理由そのものではなく又作爲不作爲の義務を設定するものではない。それはたとえ、会議又は委員会において懲罰事犯の発生したときの措置、懲罰事犯の審査手続の選択及び範囲の具体的限定(如何なる場合に如何なる懲罰を科すべきか、出席停止の期間の明定等)その他いわば手続的規定が懲罰発動の制限的規定を指称する。懲罰を科するにはもとよりこれ等の事項が会議規則中に定められていることを要するが、その規定の性質上遡及禁止の原則の範囲外にあり、常に懲罰を科すべきときの規則を適用すべきである。飜つて議会規則第百四十六條を見るに「議会を騒がし又は議会の体面を汚しその情状が特に重いものに対しては出席を停止し又は除名することができる」と規定する。この規定は如何にこれを理解すべきであらうか、その規定の文言と位置並びに自治法との関連を熱考するに、四種の懲罰の中出席停止と除名の二つに限つてこれを科するには單に違反行爲のあつたことを以ては足れりとせず、それによつて議会を騒がすか、又は議会の体面を汚すという案件とその情状が特に惡質であることの要件を定めた懲罰発動の制限的規定であつて、懲罰に関し必要な事項を定めたものに外ならず、作爲不作爲の義務を設定したものではないと解するを妥当とする。從つて本條を適用したのは当然でこれを非難するのは当らない。

又考え方を変えて原告に対する懲罰は、この規則第百四十六條により初めて可能のものとされたものと見ても自治法又は会議規則のその他の規定が、いずれも議員の作爲義務不作爲の義務を規定し、それに違反したとき、懲罰の手段を加えるのとは区別すべきであろう。「議会の体面を汚し」とは、概括的に議員の品位を念頭におき、議員が議場の内外を問わず作爲、不作爲に及んだとき、それを議会が「議会の体面を汚された」と判断することである。この場合、懲罰の事由は議員の行動自身に向けられているのではなく、その行動によつて議会の体面が汚されたとの、判断事実を対象としている。懲罰は議会が「現在」の紀律を維持するを必要と考えて行うものであつて、過去の紀律を対象とするのではない。議員の行爲当時議会が紀律を加える要ありと考えても、その後、紀律維持の必要なきものと考うれば、懲罰を加うべきではない。原告の非行は昭和二十二年十二月であるが、その発覚とか、原告への辞職勧告などをめぐり、結局懲罰は三ケ月後に行われたが、そのとき議会は、その当時の紀律維持の必要上「議会の体面を汚されその情状特に重い」としたのであり原告の行爲当時、議会の体面が汚されたと言うのではない。すなわち、原告の行爲当時「議会の体面を汚され」たことは、会議規則第百四十六條の構成要件ではない。これは、懲罰権の本質から抽出されると思う。換言すれば、議会の除名は、原告の議員当時の行動が、現在、議会の体面を汚すものとして、会議規則制定後その百四十六條に基いて、懲罰を加えたものであり、何等違法ではない。

(三)  原告主張の議会招集についての瑕疵の有無につき考えて見る。(本件除名議決に関係のあるのは二月十七日及び二十三日の議会のみであるが序でに全部について考察する)昭和二十三年一月三十一日、同年二月二日、同月十七日の各本会議が町長招集に係るもので、同月二十三日の本会議が同月十七日の本会議の延会であることは既に認定した通りであるから、以上の各本会議は正式の町長の招集した議会でないという原告の主張は採用できない。原告は右各議会について招集告知を受けなかつた。議員の一人といえどもこれを招集せずして開会した議会は議会としての権能を行い得ないと主張する。さきに認定した如く一月三十一日及び二月二日の各議会について原告一人に対しては議会の招集の告知告示(町議会の招集についても告知主義を改めて告示主義が採用されている)はなかつたのであるが、凡そ議会を招集するには議会の全数を招集することを要し、その招集に洩れたものがたとえ一人であつたにしても適法な議会の招集があつたものと見るを得ないことはいうまでもない。併し違法な招集により開会された議会の議決であつても常に必ず議決の無効を惹起するとは限らず、無効と断ずるがためにはその不招集の議員の出席によつて異つた議決を生ずる蓋然性の予想せられる場合でなければならぬ。この見地から本件を見るに一月三十一日の議会は原告を除く全議員出席し当議会規則には懲罰に関する必要事項の定めがなかつたところが、差当つて原告を懲罰する必要を痛感し該期日の相当以前に総理廳作成のひな型に則り用意された新網野町議会規則の制定と懲罰委員会の設置を全員一致議決したものである。從つてたとえ原告が招集を受けて出席したとしても異つた結果を生ずる蓋然性があつたとは認められないから未だこれを以て該議決の無効を來すべき程度の瑕疵というを得ない。又二月二日の議会は原告に対する懲罰が議題となつたものでありたとえ原告が招集を受けて出席したとしても自治法第百十七條により原告は議事に參與するを得ないものであるのみならず、当日は何等の議決なく議会は閉会したのであるから採上げて云爲するに足らないものである。(なお前記会議規則の制定は取消し得べき違法原因を有していたが、既に出訴期間の経過によりその瑕疵は治癒されている。)

二月十七日の本会議は全議員に町長から招集告知のあつたこと、二月二十三日の議会はその延会であることは既に認定した通りであるから原告がこの機会に招集告知を受けなかつたという主張は排斥する。

次に右一月三十一日、二月二日、二月十七日の各議会が三日の法定の予告期間をおかずして招集されたことは被告の認めるところである。被告は右各議会の招集は急施を要する場合であつたと主張するが、一月三十一日の議会規則二月二日の前田の懲罰二月十七日の歳出歳入決算、條例改正の各議題は事案の性質上、中二日の期間を置けない程の急速事件を認めることはできない。然らば法定の予告期間を隔てずに招集した議会の議決の効力如何というに法定の予告期間の設置は招集の徹底、議案の考究、集会に要する時間等を顧慮してのことであるから、かような議会の議決といえども絶対に無効と解すべく理はなく取消されるまでは有効なる議決たるを失わないが取消し得べき違法なる議決であることは明白である(一月三十一日及び二月二日の議会については既に前段に於て予告期間の欠缺より大なる原告に対する招集不存在について論断したからここでは触れない。)然らば二月十七日の議会は法定の予告期間を隔てず招集した違法が存し、その延会たる二月二十三日の議会はこの違法を継承しているから同日の議会に於て議決された本件除名議決はこの点において違法たるを免れない。

(四)  原告は本件除名議決は懲罰の動議の提出及び成立なく、從つて議題となし得ざるに拘らず審議した違法な議決であると主張するが、前に認定した通り、二月二日和田安逹両議員よりそれぞれ懲罰の動議提出され本井議員等の賛成があつて動議成立し、懲罰委員会に付議され、次で本会議に付議されたが議決を見ずに閉会となり、一月十七日の議会に於て更に池部議員が懲罰の動議を提出し多数の賛成意見あつて動議成立し、二月二十三日の延会に於てこの動議に基き除名を議決したことが明らかであるから右主張は理由がない。

(五)  最後に原告主張の投票の瑕疵につき判断する。除名決議の成立の経過は既に認定した通りである。原告は当初開票までに投票しなかつた一名は棄権としては計算すべしと主張するが、その一名たる議長が当初投票しなかつた経緯に徴し右主張は採用することを得ない。この点に関し被告は議長は裁決権のみを有し表決権を有しないものであつて、議長は出席議員数から控除して議決の成否を見るべきものであると主張するが、議長も議員として当然表決権を有するものであつて、唯議長として裁決権を行使するときは表決権を有しない旨を自治法第百十六條第二項は明文を以て規定したのである。從つて本條項は議長に裁決権行使の余地なき自治法第百三十五條第二項の特別議決の如き場合は適用の余地なく、議長が表決権を有する以上出席議員の数に加うべきことは勿論の事で被告の右主張は理由がない。更に被告は目録の如きは有効投票に算入すべきではないと主張するが、白票は積極的に自己の意思を述べるのでないが、なお消極的には「現状変更」に賛成しないという意思の表示であるからこれを以て無効の投票と見るのは当らない。又被告は出席議員二十一名の四分の三は十五名と四分の一であり、この端数は切捨てるべきであるから二十一名の四分の三の同意は十五名を以て足ると主張するがその採るに足らざること多言を要しない。

然らば議長が後に一票を投ずるまでは本件除名は出席議員の四分の三の同意なく成立し得なかつたのであるが、開票後議長が除名賛成の一票を行使した結果除名丈特別議決の法定同意数に逹し議決として成立したというべきである。この議長の表決権の行使は法律を誤解した非を認識し、出席全議員の承認の下に開票前の投票たる價値を認めてなされたものであるが、事實に於て開票後投ぜられた一票であるからこの一票は記名投票と價値を等しくし、無記名投票にやや副わないものであるからこれを入れて成立した議決は議決の方法に瑕疵あるものたるを免れず違法というに妨げない。併しながら右瑕疵は投票権を有するものを投票せしめなかつた場合と異なり、投票権を有する者に投票権を行使せしめたものであり、その投票が自由なる自己の意思に基づく一票でさきに投票された者の意思によつて賛否を左右されたものでないから本件議決自体を無効に帰せしむべき重大なる瑕疵というを得ない。

第三、除名処分の違法と行政事件訴訟特例法第十一條の適用。

本件除名議決には既に論じ來つた如く、これを無効ならしむべき瑕疵は一として存在しないが、一、その議決をした議会は延会であつてこの延会の基本議会は法定の予告期間を隔てずして招集されたものであること。二、無記名投票の開票後なるに拘らず全員承認の下にではあるが当初投票せしめなかつた一票を投ぜしめて議決を成立せしめたものであることの二點の違法がある。併しながら行政事件訴訟特例法第十一條の適否を考えるに、(イ)右第一點の違法は原告はもとよりこの議決からは除斥せらるべきものであり、原告を除く全議員はこの議決に參與したのであるから現実に於て議決には毫末も違法の影響するところなく、右第二点の違法もその違法の有無が議決を異なる結果に導くものではなく当初議長に表決権を行使せしめた上開票したとしても同一の結果を得たであろうことが窺知し得られるが故に、実質的に影響力のない軽少な瑕疵であるところ一方(ロ)懲罰発動の理由となつた原告の不正行爲は前記第一の(二)、及び第二、の(一)に明らかにした如く私利私慾に走り公人たるの念慮を全く忘却したところに出で町の大事業に絡んでの忌わしき財産犯罪と僞造罪を構成する底の非行であるのみならず、(ハ)議会がかような処分に出たことは前記の第一の(八)の如く議会の権威を保持するため旅行上やむを得ざるものであつたし、前記第一の(九)の如く一般町民も除名を当然とし原告の復帰を望んでいない実情にある。以上の外一切の事情を考慮するときは本件除名処分の些少の瑕疵を捉えてこれを取消すことは公共の福祉に適合せず、これを取消さずに維持することこそ公共の福祉に適合する所以だと断定せざるを得ない。正に右特例法第十一條を適用するのを相当とする案件であると思料する。

第四、結論

然らば原告の本件除名議決の無効確認を求める第一位の請求は理由なしとして棄却すべく、除名議決の取消を求める予備的取消は、議決に違法に存することを認めつつなお行政事件訴訟特例法第十一條の適用により結局棄却すべく、訴訟費用については民事訴訟法第八十九條、第九十條、第九十二條の趣旨に則り折半負担たるべきものとする。

仍て主文の通り判決する。

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